骨折

鎖骨骨折

Q.鎖骨骨折とはどのような骨折ですか?
鎖骨骨折は、全骨折中約10%を占めるほど多い骨折のひとつです。
原因は転倒して肩や腕を強打した衝撃で生じることがあります。他にもラグビーやアメリカンフットボール、柔道などの激しいコンタクトスポーツがきっかけとなることもあります。鎖骨骨折を起こしやすい要因のひとつに交通事故もあります。折れる瞬間にボキッ!という音を聞く人も多いようです。

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鎖骨とは?

Clavicle.gif

ヒトの鎖骨は、胸骨と肩甲骨を連結する事で肩構造を支持し、また各種筋肉の起始基盤として機能する。
ヒトの鎖骨は、人体の中で最も折れ易い骨であり、肩に加わる衝撃を吸収するための、クラッシャブルゾーンの役割を果たしている。

鎖骨と関節する骨
内側端で胸骨と関節し胸鎖関節をなし、外側端で肩甲骨と関節し肩鎖関節をなす。

鎖骨から起始する筋肉

  1. 胸鎖乳突筋
  2. 三角筋
  3. 大胸筋

鎖骨に停止する筋肉

  1. 鎖骨下筋
  2. 僧帽筋

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鎖骨に付いている筋肉

鎖骨にくっついていく筋肉は、

  • 僧帽筋
  • 三角筋
  • 大胸筋
  • 胸鎖乳突筋
  • 鎖骨下筋
    です。

collarbone_muscle.jpg

鎖骨の動き

肩甲骨とくっついている部分の動きをイメージしてみてください。

  • 鎖骨が前に出る動きを「前方牽引(ぜんぽうけんいん)」と言います。逆に、後ろに引く動きを「後方牽引(こうほうけんいん)」と言います。
  • 鎖骨が持ち上がる動きを「挙上(きょじょう)」と言い、下がる動きを「下制(かせい)」と言います。
  • 鎖骨が前側に回転する(ねじれる)ことを「前方回旋(ぜんぽうかいせん)」と言い、後ろ側に回転する(ねじれる)ことを「後方回旋(こうほうかいせん)」と言います。
    鎖骨の動きは、この6つの動きで説明できます。

collarbone-movement.png

鎖骨は前後に回転(ねじれる)動作もするので、注意が必要です。
=腕を上に大きく上げる動作(挙手や万歳のようなポーズ)では、肩が大きく動いて、鎖骨がねじれるようです。
=骨折した部位が大きくズレないように、腕の動作を制限しておく必要があります。

鎖骨骨折の分類

鎖骨骨折は3種類に分類される
この鎖骨骨折は骨折部位によって3種類に分類されます。
鎖骨というのは体幹は胸骨(きょうこつ)という胸のど真ん中の骨と連結し(胸鎖関節:きょうさかんせつ)、肩では肩甲骨の肩峰と呼ばれる部位と連結(肩鎖関節:けんさかんせつ)しています。

  • この胸骨に近い部位の骨折を鎖骨近位端骨折(さこつきんいたんこっせつ)
  • 鎖骨の真ん中あたりの骨折を鎖骨骨幹部骨折(さこつこっかんぶこっせつ)
  • 肩に近い位置あたりの骨折を鎖骨遠位端骨折(さこつえんいたんこっせつ)

Types-of-clavicle-fractures.jpg

鎖骨骨折の治療法

Q.鎖骨骨折の治療はどのように行いますか?
治療は保存療法と手術療法があります。
治療方針は、骨のずれ具合、皮膚から骨が飛び出ているかなどを考慮して決定します。


比較的軽度で保存療法による治療が期待できる場合、骨のずれを正常な位置に直してから鎖骨バンド(クラビクルバンド)などで患部を固定して安静を保つようにします。
痛みが強ければ鎮痛薬を処方することもあります。


骨折による骨のずれが激しい、皮膚から骨が飛び出ているなど重症の場合には、プレートやワイヤーなどを使用して骨折した箇所を結合させる手術を行うことになります。


一方で鎖骨の外側3分の1で骨折している鎖骨遠位端骨折の場合は保存加療では骨がつきにくいことも多く、手術的加療が選択されることが多いです。


近年では早期社会復帰を目指し手術を行うケースが増えています。手術をしてもしなくても骨がつくまでには最低4~12週を要しますが、鎖骨骨折の治療期間中は全く腕を動かしてはいけないというわけでなく、無理のない範囲で日常動作など適度な動作は行うようにします。

手術療法

  1. 靭帯を糸で補強
  2. 骨をワイヤー固定
  3. 骨をプレート固定
    などの方法があるようです。

烏口鎖骨靱帯を補強するように強いテープ状の糸を通して、結ぶ方法です。これだけで鎖骨の骨折部は整復されて、安定します。

Augmentation-of-coracoclavicular-ligament.jpg

手術では鋼線を用いた固定(図5)や専用のプレートを用いた固定法(図6)など骨折の形に応じた種々の固定法があります。

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図5. 鋼線を用いた固定

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図6. 専用のプレートを用いた固定法

保存療法

  1. 鎖骨バンド(クラビクルバンド)
  2. 三角巾、アームスリング(アームホルダー)
    などを使って肩や腕を固定する方法があるようです。

クラビクルバンド

「鎖骨骨幹部骨折」=鎖骨の中央部の骨折で使われるようです。

鎖骨バンド(クラビクルバンド)
鎖骨バンド、クラビクルバンドと呼ばれる肩から背中、腋(わき)の下にかけて8の字状に巻くタイプのバンドを使っていただくことが多いです。
これをしっかり巻くと、胸が張られるような姿勢になります。すると、肩甲骨が外側に移動して、胸骨と肩甲骨の距離ができます。つまり、鎖骨が引っ張られるわけですね。
骨折の整復の基本は「牽引する」ということです。骨を長軸方向に引っ張れば、ズレて曲がってしまった骨折も元に戻る方向になります。
これは特に骨折部分で短縮しやすい鎖骨骨幹部骨折で効果的です。

clavicle-band.jpg

アームスリング

「鎖骨遠位端骨折」=鎖骨の外側の骨折で使われるようです。

三角巾などで腕の重さを支える
三角巾や装具などで腕の重さを支えてあげることもよくやります。
特に鎖骨遠位端骨折では肩よりの骨折なので腕の重みが骨折部がズレてしまう方向に働きます。
そういう意味では鎖骨遠位端骨折ではこの三角巾や装具などでの腕の重みを支えることを重視しています。

arm-sling.jpg

動画

鎖骨骨折の保存療法とリハビリのポイントとは?

https://www.youtube.com/watch?v=Z1nCpUblBQ0
5:35 (2020/02/12)

  • 肩とスポーツの整形外科専門医 - 歌島大輔 オフィシャルサイト https://utashima.com/

骨折治療の基本(手術しない場合)

要は、骨がズレたらいけない。グラグラすると骨がズレる。

  • (1)まず「牽引」
    骨折しても、骨を両端から引っ張る力が加わると、まっすぐに近づく。
    →整復するときに引っ張る。
  • (2)そして「固定」
    ある程度まっすぐに近い状態で固定する。
    →鎖骨骨折の場合は、「クラビクル・バンド」や「アーム・スリング」などの固定方法がある。
  • クラビクル(鎖骨)バンド → 鎖骨骨幹部骨折
    8の字のバンドで肩の周りを引っ張り、「胸を張るような状態」でキープする。
    =肩甲骨が後ろに(外側に)行く。
    =鎖骨が引っ張られる。(鎖骨は肩甲骨に付いているので、脱臼でもしない限りは、引っ張られる)
  • アームスリング → 鎖骨遠位端骨折
    遠位端骨折の場合は、(肩甲骨も含めた)腕の重みもズレの原因になってくる。
    三角巾やスリングで腕を吊って、腕の重みが鎖骨にかからないようにする。
    =ズレの力を減らす。

鎖骨骨折のリハビリ

(2:22)

鎖骨は、関節でいうと肩の一部だと思うのが一番シンプル。

  • 鎖骨は肩の一部
    • リハビリは肩の動きが中心になる。
    • 90度以上腕を挙げるタイミング
    • リハビリ時の痛みの場所。

骨折当初は、肩を動かせば鎖骨も動くので、ある程度安静にしなくてはいけない。
骨がくっついてきたら、むしろ肩を段々動かしていって、肩関節(肩鎖関節?)が固くならないようにする。

ポイントは90度以上腕を挙げるタイミング。
肩を挙げると鎖骨も大きく動くので、最初は制限しておく。
レントゲンで様子を見ながら、可動範囲を広げていく。

リハビリ時、肩を動かすと痛みが走る場合がある。
問題は、痛みが発生する場所。
骨折した場所に痛みが生じる場合は、鎖骨に負担がかかる動きということになるので、注意が必要。
=骨がズレる可能性がある。

藤田菜七子騎手が落馬して受傷した鎖骨骨折の特徴と手術方法

https://www.youtube.com/watch?v=EQUFEawkt98
9:46 (2020/02/02)

鎖骨骨折の特徴

  • 鎖骨とは、首のすぐ下の胸の上前面にある皮膚から触れやすいS字型をした骨
  • この鎖骨が折れる骨折は、前骨折中約10%をイメル骨折
  • 原因はスポーツや交通事故による転倒が多い

なぜ鎖骨があるのか?
体感と肩甲骨をつなぐ唯一の骨

  • 腕と体幹は鎖骨を介して連結している

鎖骨の周辺
鎖骨の下には大切な血管や神経があり、鎖骨はそれらを守る役割もあると考えられる

  • 腋窩動脈
  • 腋窩神経
  • 筋皮神経
  • 橈骨神経
  • 尺骨神経
  • 正中神経

鎖骨骨折は3種類に分類
鎖骨は2つの関節で連結されている

  • 体幹部:胸鎖(きょうさ)関節 胸骨の「胸骨柄(きょうこつへい)」とつながっている
  • 肩:肩鎖(けんさ)関節 肩甲骨の「肩峰(けんぽう)」とつながっている

鎖骨骨折の部位

  • 近位:胸骨に近い部位の骨折を「鎖骨近位端骨折」という
  • 骨幹:鎖骨の真ん中あたりの骨折を「鎖骨骨幹部骨折」という
  • 遠位:肩に近い位置あたりの骨折を「鎖骨遠位端骨折」という

鎖骨骨折の8割が骨幹部(中央)
鎖骨骨折はほとんど(約80%)が鎖骨の中央3分の1の部位で発生する

  • 成人から高齢者の場合は肩寄りの遠位端の骨折を生じる

鎖骨を骨折すると、

  • 体の中央寄りの近位骨端は、上方へズレていく
  • 体の肩寄りの遠位骨端は、下方へズレていく

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鎖骨の正常な形が変形して、さらに両骨片が重なり合って短縮すると、肩幅が狭くなる。

鎖骨骨折の診断はX線レントゲンかCTスキャン

  • 最初はレントゲン
  • 鎖骨中央部での骨折は、比較的診断が容易
  • 撮影方向によっては骨折が分かりにくいこともあるのでCTスキャンで詳しく確認する場合もある

治療

  • 鎖骨骨折の治療は、一般的には保存療法が選択されます。特に小児では保存療法が原則
  • 包帯を使用する8字帯固定法や、専門の鎖骨バンドなどで固定
  • 固定期間は乳幼児では2~3週間、小中学生では4~6週間程度

怪我した子供を椅子に座らせて、できるだけ胸を張らせて、重なり合って短縮した骨片を整復する。
そして包帯を使用する8の字固定法や、専用の鎖骨バンドなどで固定していく。

成人の手術を考えるタイミング

  • 成人では骨折部の短縮や、粉砕が強いと骨がつかない(偽関節)で、痛みや不安定感を生じる場合
  • たとえ骨がついても短縮し変形が残ったままだと、痛みや運動制限などの機能障害が生じる場合
  • スポーツ競技復帰には3~4ヶ月

鎖骨遠位端骨折の手術方法

  • 鎖骨遠位端骨折は、性質的に肩鎖関節脱臼と似ている
    • 特に「靭帯の損傷」の有無が大切だという点
    • 烏口(うこう)鎖骨靱帯を補強する
  • ワイヤーで固定する方法
  • 金属プレートで固定する方法
    もある

偽関節(ぎかんせつ)

  • 鎖骨骨折は、基本的に骨のくっつきが良好な骨なので、多少のズレは許容される
  • 鎖骨遠位端は、平らな形状になっていて、骨のくっつきは骨幹部に比べて悪い
  • 鎖骨遠位端骨折は、「偽関節」という骨がくっつかない後遺症になることも少なくない、厄介な特徴もある
  • そのため、鎖骨遠位端骨折は手術を行う傾向がある

鎖骨骨幹部骨折の手術方法

  • K-wire固定
  • プレート固定

鎖骨は細長い骨なので、力学的にも中央で折れやすい

ぽかぽか先生 柔道整復師 国家試験対策【鎖骨骨折】.MTS

https://www.youtube.com/watch?v=qU95nLj0EWM
7:46 (2012/09/16)

鎖骨骨折の保存療法

https://www.youtube.com/watch?v=y2muiLGro6g
1:25 (2019/07/08)

論文

鎖骨骨折の保存療法の研究が紹介されていました。

第10巻(2018)

柔道整復師が行う鎖骨中1╱3骨折に対する保存療法の有用性
中澤 正孝 , 久米 信好 , 根本 恒夫
東京有明医療大学雑誌,10,1-14 (2018-12-31)

この論文のPDFが読めます。







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